同人誌龍第10号の作り方
LibreOfficeのWriterでDTP編
目次
*はじめに
*台割り
はじめに
どうもはじめまして、田上光です。今回、縁あって、文芸同人誌の龍第10号のDTP作業を任されました。
その話と、実際どういう作業をしたのかを記事にしたいと思います。
要は作業ログですね。誰かの作業の参考になればいいのですが……。よろしくです。
そもそもなんで仕事を引き受ける事になったか?
文芸同人誌、龍とは何か? 約12年前の2011年ごろに、横浜市の某所で結成されたサークル『外郎会』というのがありまして、最初は文芸サークルではなかったようです。
この辺りの話は、本誌の『私の今昔』磯ひろ子さんの作品に流れが書かれています。もしよかったら手にとって読んで下さいね(宣伝)
結成されて数年後に、外郎会が文芸サークルとなってからは、一年に一回、同人誌の発行を行ってきたようです。(伝聞形なのは、実際に聞き取りしたわけじゃないからです)。
最初はコピー本でしたが、途中からオフセット印刷の本になったようです。おそらく紙版なのではないでしょうか。その辺の細かい仕様などは、先達の担当者と連絡がとれないため、詳細は不明となってます。
というのを、過去の見本誌をみせて頂いて、推察したり、聞いた訳です。
さて、まだ続きます。
令和4年4月に、龍第10号の締切がありました。そこから先はボランティアの印刷所へ、原稿の束を渡して、版づくり、製版、印刷、製本と作業に入るのですが……。
令和5年の1月の事です。9ヶ月経つというのに、一向に業者から仕事の進捗状況が入ってこないという、仕事の放置プレイをされてしまった、主宰である北見康子先生は「これはいけない」と、仕事相手の変更を決定しました。でも誰へ?
そこで白羽の矢が立ったのが田上光こと私です。以前から「生原稿用紙をパソコンに入力して、原稿の清書をするのにも、一文字0.33円はもらいますよ」と、仕事にはお金が発生するものと牽制していたのですが……先生の「今働いてないなら暇でしょ」の一言には逆らえませんでした。
社会復帰のため、令和4年は履歴書を書いては10社以上にエントリして、お祈りメールをもらいまくっていた自分に、その台詞はキツすぎますけど、昔とった杵柄といいましょうか、自分の今の環境や実力はいかほど?と引き受けたのです。不安は山ほどありましたけど。
InDesignを使わない理由
単純にお金がないからです。それと普段使ってる環境がLinux Mintなので、InDesignが動かないってのもあります。
2022年8月に自著『精神障害者の自分史〜児童虐待の後遺症・新宗教二世・アスペルガー〜』の書籍版をLibreOfficeのWriterで作成したという自負もあります。多分なんとかなるでしょうという気持ちでのぞみました。
台割り
台割りを作るかどうか、かなり悩みました。しかし、ワンマンでページ物(同人誌はページ物っていうジャンルの一つになります、印刷物のカテゴリとしては)を作るとはいえ、作業ログの記入には台割りをエクセルで作るのが一番マシだと気づき、台割りをLibreOfficeのCalcで作成しました。
エクセル(というか表計算ソフト)で、台割りを作成するにはどうしたらいいか?という記事が役に立ちました。
日本語縦書きという条件
文芸同人誌ですから、縦書き日本語で組版になる訳ですが、これがまた厄介なのです。いい感じに日本語縦書き組版できるソフトがInDesignくらいしかありません。いやもちろんウィンドウズなら他にもソフトの選択肢はあるんですよ、ええ。
Linux環境だとまあ唯一、LibreOfficeのWriterでしょうか。他にあったら教えて下さい。
参考:【2021年令和3年最新進化版】LibreOffice Writerで縦書きを使うための設定方法
フォント選び
フォントの見本帳も作ってみましたが、セブンイレブンのマルチコピー機で出力する時にエラーがでました。なので、そのページはpdfからjpegにして、画像化して出力しました。どのフォントが悪さしてるかの特定はできてません。
下図、どのフォントが悪さしてるか分からないフォント見本帳の3ページ目を抜粋。
必要なフォントは本文の明朝・見出し明朝・著者名(小見出し)・本文強調のゴシックと4種類です。まずは一番重要な本文フォントの見本組を作る事にしました。
見本組み作成
この時点ではまだ、原稿は手元に来てません。初回打ち合わせのための準備段階です。あらかじめ本文の見本組みを作成して、読みやすさと組版のしやすさをチェックしました。
ここで明らかになった問題点は以下の通りです。
フォントのベースライン(方眼紙の線と書体の位置)がズレるため、レイアウトが意図せぬ形になります
問題なく配置できているフォントはIPA明朝とTAKAO明朝、東風明朝の三つです。
デザイン的に優れていると思える、noto系と源ノ明朝は縦書きには不向きなようです。
さざなみ明朝は文字コードの割当に問題があるようで、今の環境では文字化けしてしまうので使用が不可能なのです。
縦書きのもくじが作成不可である。
厳密には、「縦書きでも目次がつくれるが、日本語組版としては実用的ではない」といった感じでしょうか。ページ数が縦中横にならず、その部分が非常におしいです。なんとかしたいけど、どうしたらいいのかさっぱりです。そもそもニッチな要望を誰が叶えてくれるのでしょうか?いや無理でしょう。日本語:縦書き:縦中横:目次なんて……。かなしい。
組版の見本の本文は、宮沢賢治「注文の多い料理店」から引用です。
段組みはなし(1段組って言うの?)、A5版、一行の文字数ではなく、天地の余白から逆算したのでちゃんと計算していません。手抜きです。天地左右たっぷり余裕の2cmあきにしました。
実際作業に入ってレイアウトしたら、もっと地のアキと、ノドのアキをとってもいいかもしれませんねってなりました。でもそしたら、ページ数が100ページ越えますよね。お金がないのにそんな贅沢できませんよね。泣く泣くあきらめました。
出力サンプルは、意図的にグリッド線を印刷するようにしました。ズレの程度が分かるようにです。
本文の大きさは10.5pt、1行43文字×19行=817字、今回の龍第10号では、予定されている原稿用紙の枚数は、400字詰め原稿用紙で70枚=28000字、ざっくり計算すると34.27ページになります。
と、この時点では「案外ページ数が抑えられるし、原稿用紙をどうPCに入力するか、その時間だけが読めないのが不安要素だな」なんて考えてました。
本文10.5ptって3.704167mmで14.8Q、つまりは15Q弱だなって、漠然と思ってました。冊子印刷にしては結構大きい文字サイズじゃないですかね?なんて思っていました、この時点では。
※Q(級)もptも文字の大きさを表します。詳しくは検索してね。
ダミーテキストを用意
この時点で「400字詰め原稿用紙で70枚」と聞いていましたので、先回りしてダミーテキストにて、本文の見本組をしちゃいました。
ダミーのテキストは青空文庫の注文の多い料理店から。見本組は以下の通りです。
-Takao明朝、10pt(36ページ)
-Takao明朝、12pt(50ページ)
-IPAex明朝、10pt(36ページ)
-IPAex明朝、12pt(50ページ)
と4種類も作った。結構気合が入ってますよね。結局無駄になったけどね!!!!
入稿・本文レイアウト
印刷見本と原稿をとりに洋光台へ出かけました。2023年01月28日の19時に入稿、やったね。帰宅してから、即作業に取り掛かかります。
文字入力で合計15時間もかかってしまった
まずは生原稿から文字をPCに入力です。
文字入力はTATEditor ubuntu版を使っています、めっちゃ便利ですよ。
本文のレイアウト等に関しては後まわしになります。しかし、打ち合わせでもらってきた印刷見本を見て、おどろきました。
本文がだいたい14ptから20Qの大きさなのです。かなり大きい。これはページ数も3桁になるのでは?と訝しみました。
文字入力は、ざっくり15時間くらいかかってますね。初日が寝る直前まで7時間、次の日曜日が8時間くらいで、文字入力の途中で外郎会(この同人誌を作っている文芸サークル)の新年会があったため中座しています。23:49まで目一杯文字入力をしていました。
今カウントしたら、初稿は29089文字(ダミーが28000文字だった)もあります。単純に15で割ると1時間に1939.26文字を入力した事になります。まあぼちぼちって所でしょうか。
文字入力が終わったら、本文のレイアウトに流し込んで、見出しと著者名(小見出し)を適用したら、ほとんど終わったようなものです。って今は簡単に書いてますけど、本文のサイズと行間決め、ヘッダとフッタ決めが一番悩むんですよ、ええ。
見本誌を元に、ヘッダとフッタ(ノンブル)の位置決め
ヘッダもノンブルも現時点では仮おきのつもりです。実際、仮おきになりました。というのも、プリンタ代わりにセブンイレブンのマルチコピー機を使うため、そのプリント余白がそのままページレイアウトの余白になるからです。
つまり、印刷見本と今作の、ヘッダとフッタ(ノンブル)の縦位置が微妙にずれる可能性があるのです。両者を比較してみないとわからない微妙な差異ですが、こだわる人には痛恨の一撃になります。
この辺は、サークルのメンバーには大丈夫なようでした。ヘッダ位置も大丈夫だったようです。
この作業の前段階くらいで、台割りファイルを作っておきました。イラスト素材の確認や、紙の指定、コンテンツの開始ページ等を把握するのに(目次機能はありますが、縦書きだと縦中横が使えないので無理でした)非常に便利でした。
本文の行間は半角で大丈夫でした
本文14ptに対してルビが7ptになって丁度いいからです。行間はもっと開けてもよかったなと思いました。
本文に対してルビは2分の1サイズが丁度いいのですが、そうなるとWriterでの最小フォントサイズから逆算する事になります。
確信は持てませんが、多分最小フォントサイズは6ptなようです、つまり「ルビありで本文を組版する場合、LibreOfficeでは12ptより上が適切なフォントサイズ」となります。
今回のは、1ページ14pt行間半角(7pt)×15行なのですが、いざプリントアウトしてみると、結構ギチギチな印象は否定できません。
ちなみに、ルビの設定は段落にはなく、文字スタイルの所にあるのが案外わかりにくかったのでスクショしました。
話は別になりますが、北見先生から「行間をもっと開けて!」と言われた時には「全ページやり直しになるのか」とちょっと絶望したのでした。(後述)
本文の設計
1行14pt34文字(設定だとヘッダフッタ部分もふくめた数になるのでバグってる)行間半角アキ15行。
天地10mmアキ、左右均等17mmアキです。今回はこうなりました。記述が重複してますが、ゆったりレイアウトになっているのは、校正にコンビニプリントをつかってるので、コピー機の余白に合わせた形になってます。
本文割付に6時間
いいペースで終えたと思います。目次を含め8セクションですから、1セクション平均1時間未満ですし。
予定では02月02日木曜日が初稿でしたが、01月31日の夕方には初稿を渡していました。20数年ぶりの本格的DTP作業でしたが、まあ自著の適当さに比較したら、きちんと作業し、それができたのはおどろきでしたし、自己肯定感がました感じがしました。
未解決:小見出しの字間がへんちくりに開く
見出し周辺の話もしておきましょう。実は今回の縦組み日本語を使うと、見出しが変な事になります。
本文「は」きちんと割付できるんです。しかし、フォントサイズを少しでも大きくしたり小さくしたりすると、14ptのマスの中に強制レイアウトされるような挙動をします。
どうやら仕様のようなので、見出しはまだマシなのですが、小見出し(著者名)が全然ダメになりました。でも仕方ないのでこのまま了承を得ての出力になります。
どういう挙動がいいのか?と問われると、文字間の強制割付は無視して、14pt半角アキの行間に対して割付されるような挙動をするといいのではないか。と提案してみます。
誰か助けてくれ!と言いたい所の一つです。
ページスタイルを複数用意して、本文は別ページからスタートって思いつきましたが、ダメですね、本文と見出しと小見出し(著者名)が混在してるページが必ずありますもの。
初稿時に北見先生から「行間がつまっている」と言われ、冷汗をかいた件
というのも、実際には「著者名と本文のアキ行数が1の所を4行アキに増やせ」という指示でした。はー、びっくりした。
というのも、本文の行間がつまって見えるのは事実で、それを開けるとなると、ページ数が増えるのと、作業の手間がかかるので、嫌だなと思ったからなのです。やり直しかよってね。
見出しと本文のアキ行数は、1-3増えても、ページ数の増加にはならない設計になっているので、問題なく指示に従えました。
実は、本文行間を1-2pt増やして、どうページ数が増えるかっていう実験をしたファイルもありましたが、いらないと分かってから速攻で消しました。トラブルの元になりそうなので。
行間が半角以上になっても、ふりがな(ルビ)の設定とは別に行間が開くのを確認しました。(下図の赤枠で確認)
印刷会社選定、自動見積もりの結果
校正を出している間に、校了後の段取りを調べないといけません。いかに安く印刷製本するかがミッションになります。
自分史を印刷製本してくださった、製本直送と、同人誌印刷なら大手の栄光の二箇所で簡易見積もりをしました。
現時点で分かってる事は、A5、本文88ページ、70冊これだけ。
でも、これで見積もりに十分なんです。自分にはですけど。
栄光のが安かったのでその金額を外郎会の会計さんへ伝達しました。この金額ならば他の人達も納得するだろうという話になりました。
あ、ちなみに、今までの同人誌龍はコピー誌やオフセット印刷でしたが、今回からはオンデマンド印刷になります。だからどう違うんだってのは「値段と仕上がり」それと作業手順なんですけどね。説明してもおじいちゃんおばあちゃんの我がサークルメンバーには分からないので、その辺は省略させて下さい。
70冊を印刷・製本して、単価は420円とちょっとになりました。頒布は500円の予定です。キリがいい数字ってことで。このblogで頒布するか不明です。確か自分への割当は10冊になったはずでして、おそらく「自分史の抜粋が入ってるからお試しでどうぞ」みたいな形で身近な知人に配布するつもりでいますけど。
セルフチェック入稿が自分の環境ではうまくいかなかったので、どうしたものかと思ってます。ブラウザを変えればいけるかな?
ざっくりDTPの単価はいくらだったのか?
今回の仕事はボランティアなため、ゼロ円で請けましたが、気になったので今の相場感覚を調べてみました。
ざっくりページ単価が2000円。88+表1-4で92ページ……18万4000円!うそだー。
そんな美味しい仕事なんて請けたことなんて、今までないわー!とも思いましたよ。でも、ページデザイン、割付け、文字入力までふくめたら、本来ならこのくらいの金額がかかっても仕方ないよねとは思います。いくらダンピングしても、フォント代・パソコン設備代・電気代など考えると、20万円弱なら妥当かなとも思えますし。
ページの大きさによって単価が変わるか?ざっくり調べた感じだと変わらなかったようです。雑でスミマセン。気になったものですが、深追いしなかったのですよ。
未解決:縦書き目次の件
縦書きで目次を作ると、ページ数の部分が縦中横になりません。結構大問題なのですが、あきらめて台割りを元にしたページ管理を行うようにしました。
※参考画像はありません。実際に縦書きで目次を作ってみてください、そして絶望して下さい。
初稿戻りのトラブル(Yさんの件)
Yさんが校正用紙を捨てました。バカですか!と声が出ました。校正用紙の代わりにと渡されたのは、新規の原稿でした。まるっと差し替え……。この部分だけ作業が数時間かかりました。厄介おじいちゃんには閉口しました。二度とやらんでください。
2校トラブル(Kさんの件)
初稿で原稿差し替えをしたという、ロックなYさんに比して、次に赤字が多かったのはKさんでした。しかし、忙しさを理由に2校をチェックしてくれず、下版が遅れています(現在進行形)ので、大変困ってます。この記事を書いている明日18:00に2校の引取にいきます。仕事の流れを中断されて、結構凹んでます。自分にだって先々の予定があるのに。プンスカ!
未解決:ヘッダの変更ができなかった件
ヘッダは、内容を反映してくれないので、心労がひどかったのですが、大丈夫だったようです。助かった。
※ヘッダ部分が例えばこの画像ならば「目 次」になってくれれば問題なかったのだが、編集してもページごとになってくれない問題がありました。
多分、自分が悪いのですが、何がわるいのかさっぱりです。縦書き日本語なんかやってるから、問題が起こるんだと思っていますけど。
いらすとやは神、写真のレイアウトで悩まなくて良かった件
今回懸念していたのは、文中に写真が入り、レイアウトが大変になるのでは?という点でした、実際、文中に画像ファイルが挿入されるのですが、それほど大事にはなりませんでした。そこが大変たすかりました。
※題字をスキャンして、リサイズして挿入しました。一番苦労した部分です。
※いらすとやは神ですわ。ちょっと空いたスペースに季節や風物のイラストを入れるのが、まあページ物のセオリーなのですが、いらすとやで事足りちゃいますもの。本当にありがたい。
余談やあとがき
現時点でまだ下版してないので、タイトルには偽りがありますが……まあいいでしょう。そろそろ中断して、コーヒーでも飲みに行きたいですね。
この記事を次の文芸作品として、サークルへ提出する事も考えましたが、スクショを多様した比較的技術に関した記事になるので、文芸向きじゃないのですよねえ。
でも北見先生には記事を公開したら「今回の事を記事にしましたよ、よければ見てくださいね」とLINEするのだろうな、なんて思ってます。
結論、貧乏でも文芸同人誌はLinux環境を使えばなんとか出版できると言えますね。
notoフォントが縦書きに対応してくれたら、どんなに嬉しい事だろうなあ(クソデカボイス)
2023-02-19追記:無事校了をして、PDFを入稿しました。やっほーい!銀行振込と納品が残ってますが、なんとかなるでしょう。
2023/02/22追記:なんとかならんかった!
連絡先と印刷所が抜けてると印刷会社から連絡が来たのであわてて修正して、再入稿しました。印刷見本だと印刷所はなくて、連絡先は電話番号なのを、今回は校正で削っちゃったのよね。それを身バレを覚悟で自分のメアドにしました……。だって外郎会のサイトもメアドも存在しないもの。主宰は85才のおばあちゃんなのよね。自分が加入するまで会員は65才以上でしたもの。そういう所はキチンとしましょうね。(戒め)
2023/03/06追記:2-3冊あまりが出そうなので、webからの注文を受け付けます
上記リンクからどうぞ。支払い方法は注文後に連絡します。